JSDNニュース No.21

日本災害看護学会 第12回年次大会終了報告
いのちを守るメッセージ

大会長 酒井 明子

日本災害看護学会第12回年次大会を、2010年8月28日29日の2日間、福井市フェニックス・プラザにて開催しました。北陸地方での年次大会開催は今回が初めてでしたので、大会までの準備期間、参加者の確保に不安はありましたが、約1,000名の参加登録者、約300名の一般市民の方々、企画委員・実行委員・ボランティアの皆様を合わせると総勢1,600名以上の方々が集った学会となりました。
開会式には、災害・防災への関心の高い西川知事や福井大学災害ボランテイア支援センター長、福井県看護協会長にご臨席賜りました。
また、基調講演は、45年間事件・事故・災害を現場重視の立場から問題提起してきたノンフィクション作家の柳田邦男氏の「いのちを守りいのちを支える」をテーマとした講演、公開講座は、日本一小さな物語一筆啓上に寄せられた国内外からのふみをもとにした丸岡町文化振興事業団の大廻政成氏によるいのちの大切さについての講演でした。特別講演および公開講座は一般公開でしたが、300名を超える一般市民の方々の中には涙を流しながら、こころにしみ入るような表情で聞き入っていた姿がありました。地下鉄サリン事件被害者の会代表の高橋シズエ氏の講演は、会場が狭くご迷惑をおかけしましたが参加希望者が多く溢れる状況でした。また、近年の新型インフルエンザや遺族ケアの問題、トリアージやケアリングの実践、災害時のトイレの問題なども議論しました。研究発表は、災害看護教育、災害への備え、海外支援など74演題で、多様な職種や分野の方々のご参加により、様々な観点から意見交換ができました。
本学会は、災害看護導入後の時期でもあり、参加者の皆さまの災害看護への関心は高かったと思います。皆さまのご協力とご支援のもと、他職種と協働して、防災・減災の意識の更なる向上に積極的に関わり、命の大切さのメッセージを伝える場としてタイムリーであったと思います。今後も根気や粘りや地道な努力で災害看護研究が蓄積され、学会が充実し、災害看護学の発展という未来につながっていくことを期待します。


チリ大地震医療救援隊に参加して

四街道徳洲会病院 看護師 板脇 典子

私は2月27日に起きたチリ大地震に、四街道徳洲会病院からTMATの医療救援隊として参加しました。チリに到着した翌日から活動場所を探しに震源地近くの街や津波の被害にあった街へ向かいました。実際に津波の被害にあった街は海岸線から何十メートルも離れた場所まで砂が打ち上げられ、家も倒壊しています。その様子は自然災害の恐ろしさを物語っており言葉では言い表せない気持ちになりました。私たちは震源地に近いカウケネスという街の病院で活動を開始しました。病院の建物の半分は地震で倒壊しており通常120床あるところ40床しか稼働していません。私たちはスタッフを助け病院が通常通りの業務ができるようになるまで援助することになりました。病棟の様子なども見てできることがないかと考えましたが、看護という仕事はその国の生活背景や医療体制によって様々な形をとるので介入するのが特に難しい仕事です。チリの看護、生活習慣について知識がないうえに、言葉の壁があればなおさら誤解を招きかねない結果になってしまいがちです。そこで私たち看護師は救急外来に来る患者さん達のバイタルサインを測定し診療録に書き込むという仕事をしました。次から次へとくる患者さんのバイタルを測定している間現地のスタッフは時間をかけて処置ができたり、他の仕事をすることができます。実際来院する患者さんはほとんどが内科疾患の患者さんでしたが、地震のストレスによる腹痛やめまいを訴える人が多く、また地後片付けをしていてガラスで手足を切ったり、釘を踏んでしまったという人も多く来院していました。今回のように病院で現地のスタッフとともに働くというケースだと災害医療と国際協力という2つの面があり、その狭間でどうしたらよいのか考えさせられました。この経験を今後の活動に生かしていきたいと思います。



パキスタン・イスラム共和国洪水被害に対する国際医療活動に参加して

川口市立医療センター所属
国際緊急援助隊医療チーム登録看護師 高岡 誠子

2010年7月下旬からパキスタン・イスラム共和国各地で発生している記録的な豪雨により、国内広域に甚大な洪水被害が発生し、パキスタン政府より日本政府に対して国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief: JDR)医療チーム(以下JDR医療チーム)派遣の要請がありました。
私達はパンジャブ州サナワン地域のヘルスセンターの一画を提供され、そこで活動を行いました。
現地の気温は連日45度で、立っているだけで、Gパンの色が変わるほどの汗をかく過酷な環境でした。
今回の災害は洪水であり、派遣時期も被害が出てから1カ月以上は経過していたため、感染症の腸炎、呼吸器感染症、皮膚感染症、またマラリアや栄養不良の患者が多かったです。受診を希望する被災者は連日200名程で、日を追うごとに増加して行きました。来訪する全員を診察するのは不可能なため、チームの方針として、小児・発熱・消化器症状の患者にクオリティーを絞りトリアージを行いましたが、容易ではありませんでした。なぜなら、感染症に罹っている方が多く、地震災害時に多い外傷(骨折や縫合不全)とは違い、一目見て明らかにはわからないからです。押し寄せる大勢の受診希望者の中から、前述した3点に絞りながら、重症者を見落とさないように、看護師と調整員、通訳を一組のチームにして、多い時は3組で、フィジカルアセスメントや主症状を聞きながらトリアージを行っていきました。そのような中で、9日間で合計1,832名の診療を行いました。
また現地はイスラム圏であったため、女性は肌の露出を最小限にし、頭から全て覆い隠している姿が多く見受けられました。そのために、診察をする際は現地の文化を尊重し、トリアージを行う外待合は男性とは別の場所に設け、テント内待合室や点滴室内は、シーツ等で仕切りを行いました。受付では女性医師を希望するかを確認し、希望する患者に対しては女性専用診察室(個室)に案内しました。医療行為に関しては、あまり男女の区別は気にしないとのことでしたが、中には気にかける人も見受けられました。できるだけの配慮を行いましたが、診療所の護衛の警察官が、女性診察室の前にいて嫌な思いをさせてしまったり、通訳は男性しかいなかったことで、診察時、何も話せない女性もいたりしました。(この患者には後で夫に診察室に入ってもらい、診療を行いました。)しかしこのような環境下での診察にも、患者さんからは、感謝の言葉や極上の笑顔を頂くことが出来ました。
JDR医療チームでの看護活動は、国内での看護に加え、異文化の理解と尊重が必要となってきます。また日本人特有の‘察する’という行為が、被災者や、通訳、現地スタッフ、隊員との信頼関係を築く架け橋になることを、今回のミッションを通じて強く感じました。
最後にJDR医療チームの活動を快く受け入れ、支えて頂いたヘルスセンターのスタッフ、現地スタッフや通訳、協力してくれた子供達に、心から深く感謝を致します。



日本災害看護学会評議員選挙告示


平成23年2月に日本災害看護学会評議員選挙が実施されます。評議員選挙の投票用紙は、平成23年2月上旬に日本災害看護学会選挙管理委員会から各正会員の連絡先に直接お送りしますので、送付される所定の用紙を使用して指定の期日(平成23年2月28日、当日消印有効)までに投票して下さい。

選挙人は、平成22年11月30日(火)までに本年度分の会費を納入し会費納入者名簿に掲載された正会員、被選挙人は、入会年度を含めて3年以上経過した正会員です。評議員の選出は会員区分別(個人会員、組織会員)に行います。なお、前回選挙より評議員は地区別の選出となっており、定数は地区の会員数に応じた数となります。後日直接会員宛てに「日本災害看護学会評議員選挙告示」を発送致しますので、詳細はそちらをご覧下さい。

平成22年11月1日

日本災害看護学会選挙管理委員会


日本災害看護学会 第13回年次大会のご案内


日本災害看護学会第13回年次大会を、さいたま市大宮ソニックシティで開催します。
本大会では、災害に関わる看護技術の向上や支援システムの構築とともに、災害看護活動に求められる倫理や被災者の人権に配慮した総合的な看護活動の在り方について考えたいと思います。本大会が会員の交流や活発な討議の場になりますよう、現在、様々なプログラムを企画しております。多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。

会  期
2011年9月9日(金)・10日(土)

会  場
大宮ソニックシティ(埼玉県さいたま市)

大会長
浦田 喜久子(日本赤十字社)

テーマ
災害看護の原点にたち未来を拓く
私たちは何のために、 どのように在り、 どこに向かうか


編集後記


ハイチ地震、チリ地震津波、パキスタン洪水、奄美大島豪雨など、今年も多くの災害が発生し、尊い命や財産が奪われました。また、春から夏にかけて宮崎県南部を中心に広まった口蹄疫の流行は、畜産業はもちろん、農業、環境、産業など国民生活のすべてにおいて影響を及ぼし、危機管理に一石を投じたのも記憶に新しいことと存じます。
ニュースレター21号は、こうした災害の救援活動を中心にご投稿頂きました。今後も本ニュースレターが、災害への備えや情報発信の場となるように、会員皆様からの忌憚のないご意見やご投稿をお待ちしております。

担当:臼井 千津、鴇田 猛、大山 太、瀬戸 美佐子、今井 家子、菅野 太郎、大草 由美子(記)






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会員数:2023年9月末現在

名誉会員10名
(うち物故会員4名)
個人会員:1,292名
組織会員:33組織
賛助会員:3組織

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