「災害時こそ,母乳のすすめ」の看護を

疋田直子(現在,マラウイに在住しNGO活動中)

 

四川省の大地震に対する緊急医療支援活動を行うため、国際緊急援助隊医療チームのメンバーとして派遣されました。派遣先は四川大学華西病院という大規模な大学病院内での活動となりました。そこでの活動中に私が感じたことについて書かせていただきたいと思います。  私は助産師ということもあり、産科病棟内で活動を行いました。当然のことながら、被災者は家ばかりか財産のほとんどを失ってしまった方々がほとんどでした。そのため,入院中に必要な衣服、紙おむつ、哺乳瓶、粉ミルク等はすべて寄付されており,入院費用も無料となるなど,国をあげて支援活動をしているという印象を受けました。

大学病院には被災地から大勢の妊婦・褥婦が同時に搬送されてきており,看護の手が回らないためか、妊婦・褥婦への指導が十分に行き届いていないようであり,その結果,次の現象が見られていました。

・中国は「一人っ子政策」のため初産婦がほとんどであり、多くは手探りの状態で育児をしていた様子が見受けられました。

・母乳が足りないと思い込み、毎回,母乳をあげた後にミルクを大量に飲ませるということが行われていました。 ・授乳の仕方や乳房の手入れ方法も理解しているとは言い難い状況でした。 そして,なかでも「粉ミルク」の使用方法に懸念を抱きました。このことは,日常の病院における褥婦への対応と災害時との対応に違いが有るか,どうか,わかりませんが実際には次の状況でした。

・褥婦へは哺乳瓶、粉ミルクが渡されており,お湯の入ったポットが一日数回,渡されています。 ・病室には水道があるだけで、哺乳瓶を消毒する設備はありません。  ・冷蔵設備もなく、昼間は30度を超す部屋の中で、残ったミルクを次の授乳のために取っておくという場合も少なくありません。

そこで,指導として,「残ったミルクは菌が繁殖するから捨ててね」と説明をしました。しかし,次に訪室した際には残りのミルクを使っている場面に幾度も遭遇しました。

財産のほとんどを失ってしまった被災者にとっては、粉ミルクは貴重品です。残ったミルクでさえも取っておきたいという気持ちは理解できないわけではありません。さらにもう一つの問題として,褥婦と赤ちゃんの今後は帰る家もなく、お湯を沸かす燃料や、粉ミルクに使用する安全な水さえも手に入れられるかどうか,わからない状況でした。不確実な環境を考えると「粉ミルクではなく、母乳をすすめなくてはいけない」と考え,できる限り,一人一人を訪室し、授乳指導を行いました。幸い、ほとんどの方は母乳がよく出ていて、粉ミルクをあげる必要がないようでした。「すごくよく出る,いいおっぱいだよ。母乳だけで大丈夫,自信持って」と,授乳指導のたびに私は声を掛け続けました。果たしてどのような評価がなされたか,確かめる手立てはありませんが,いつか,振りかえりもあわせて忌憚のない御意見を戴きたいと思っています。

今回の活動を通して、災害時における「粉ミルク」のあつかいを充分に考えなければならないと思いました。「粉ミルク」を作るためには、安全な水とお湯を沸かす燃料、そして、何よりも衛生に対する十分な知識が必要です。不衛生な環境でミルクを使用することにより,かえって赤ちゃんに危険な状況が生じることになりかねません。その点、母乳は不衛生な環境に陥る心配はありません。災害時こそ、母乳を積極的にすすめ,母乳が良く出る環境を整え,安心して育児ができるための看護が大事なのではないかと思います。

(マラウイからe―mailにより原稿を戴きました。(日本災害看護学会:担当・臼井千津)。

 




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