JSDNニュース No.37

平成30年7月豪雨災害
断水と交通障害が続く中での病院運営

独立行政法人 労働者健康安全機構
神戸労災病院 看護部長 小 林 由美子
(元 中国労災病院 看護部長)

平成30年7月6日(金)、早朝から大雨警報・洪水警報と次々に発表されていたが、病院機能評価受審の真っただ中(2日目)でタイムリーに情報を把握できていなかった。機能評価が終わるころ、「JR呉線が止まった」「道路が冠水している」などの情報が入りはじめ、マイカー通勤者が多いことから月曜日の深夜勤務者まで出勤が可能か確認をとるよう各看護師長に指示し、勤務者の状況を看護部に集約した。さらに出勤者で帰宅困難者が出ることを想定し、休憩場所の確保、準備等を行い帰宅したが、同日23時頃、DMAT要請が入り災害対策本部が立ち上がった。
当院は幸いにも建物被害は全くなかったが、土砂災害が広範囲に渡りJRが不通となり、広島市や東広島市と繋がる主要道路が寸断されたため孤立状態となり、医薬品・医療材料・食糧等の物流が一時供給停止や大幅な遅延が生じた。さらには、水道用トンネルへの土砂流入による閉塞で、7日12時から貯水槽への入水がストップし断水が始まった。断水と物流が停止・遅延することを受け、緊急(外傷・帝王切開)以外の予定手術・内視鏡を延期、二次・三次救急の受入れ制限、予定入院の延期等、病院機能を一時縮小せざるを得なかった。
一方生活用水は、冷房の制限、シャワー・ウォシュレットの停止、無洗米への変更や食器のラッピング等の節水対策を実施し、トイレや手洗い用水は確保した。これらの節水対策により、通常180トン/日使用する水量を約半分の80~90トン/日に抑えることができた。しかし、7月上旬とは言え外気温が30度を超える猛暑日もあり、患者の体調を考慮しながら時間を区切って冷房対応した。
これまでは発災後3日以内には外部支援が得られると想定し、食糧・水・医療材料・医薬品等3日分を備えていた。しかし、今回は非常に広い範囲の被災と断水が思いのほか長引いたこと、交通経路の広範囲な被災により陸の孤島と化し外部からの早期支援が受けられにくかった経験を活かし、災害拠点病院としての機能を発揮・維持するためにも、今後はより一層地域自治体および他医療機関、地域住民をも巻き込んだ災害対策を行っていくことが重要であると強く思った。
最後に、被災の際ご支援頂いた地域自治体、自衛隊、医療機関、労災病院グループの皆様に深く感謝するとともに、交通渋滞が続く中3時間かけ出勤してくれた職員にも「よく頑張りましたね」と伝えたい。



2018年世界災害看護学会(WSDN)に参加して

藍野大学医療保健学部看護学科 西 上 あゆみ
前姫路大学看護学部看護学科  安 達 和 美

2年に1度開催される世界災害看護学会(WSDN:World Society of Disaster Nursing)の第5回大会は、10月18日-19日ドイツのブレーメンで開催されました。世界災害看護学会は2008年日本(神戸)で発足し、本会の理事長は発足以来、山本あい子先生が引き受けられてきました。今回の大会長はStefan Gorres先生(ブレーメン大学教授)で、テーマは、「Future Challenges for Global Disaster Risk Management ? Evidence based Research and Powerful Competencies Needed for Nurses(世界的な災害リスク管理への挑戦-看護師に必要な科学的根拠に基づいた調査とパワフルな能力)」でした。参加者は170名を超え、16の国と4つの地域からの参加があったとお聞きしています。抄録集を見ると38の口演発表と70のポスター発表がありました。新たに第4版となる「Disaster nursing and emergency preparedness」を発行された編集者のVeenema先生の講義や南裕子先生のOpening speech、3つのパネルディスカッション、最新のトピックスをふまえた災害看護のスペシャリストによる講義等が行われました。現在(2018年11月7日)、学会HPには、大会時の様子が写真掲載されています(https://wsdn2018.de/photos/)。

ドイツの10月は日本より少し寒い12月程度の気温で、深まりゆく秋を日本より一足先に味わいました。また、ブレーメンのマルクト広場(「ブレーメンの音楽隊」の像があります)の市庁舎とローラント像は世界遺産のひとつでもありますが、学会場はその場所から徒歩で10分ほどのホテルでありました。1日目の学会終了後は、無料でCity tourを企画していただきました。現地滞在、47時間というハードスケジュールではありましたが、世界中の災害看護に関わる研究者の最新の研究、知見に触れることのできる学会参加となりました。2020年は韓国、2022年は台湾で開催されるそうです。次回の参加を楽しみに研究を続けたいと思います。最後になりましたが、2018年大会では、ポスター発表部門で優秀であった3つの研究について、賞が贈られました。


ネットワーク活動・調査調整部
平成30年北海道胆振東部地震における初動調査報告

四街道徳洲会病院 柳 澤 修 平
東京医療保健大学 福 島 芳 子

我々、ネットワーク活動調査・調整部では、災害看護の知識構築の一助となるべく、直接、被災地に赴き、被害状況の確認調査やケアニーズ等の把握を目的に「初動調査」を行っています。
今回、私たちは、地震から約3か月経過した、平成30年12月3-4日に北海道札幌市に赴き、地震により北海道内全域に及ぶ大規模停電(ブラックアウト)が発生したことに伴う医療機関機能の一時的な低下による被害状況および看護活動について初動調査を行いました。
訪問先の医療機関の近くでは、地震による液状化で立ち入り禁止となっている地域も未だ残る状況でした。傾いた家や地面の陥没や隆起を目の当たりにし、復興にはどれだけの時間がかかるのかと、その道のりの長さを改めて実感しました。
調査にご協力いただいたのは、市内の医療機関や老人保健施設に勤務し、発災直後から活動されていた看護管理者、診療に多くの電気の利用が必要な放射線部管理者、避難所で活動された災害支援ナースを派遣した看護協会担当者の方々です。
看護管理者および放射線部管理者の方々は、地震による設備等への大きな被害はなかったものの、電子カルテ内の情報が閲覧できない状況下で、外来診療休止による患者対応、人工呼吸器装着患者や透析患者の他院への搬送、在宅酸素利用者の入院受け入れ、水が流れないトイレ利用時の対応など、数多くの貴重な経験をされ、それらの経験を今後の備蓄品の見直し、BCP(事業継続計画)や電子カルテシステム障害時マニュアルの更新に活かしたいと語られておりました。
看護協会担当者の方々は、地震による被害道路事情を考慮した協会のレンタカーによる臨機応変な送迎対応や保健所保健師との連携による円滑な現地対応をされたことのことでした。また、これまで訓練に参加していた災害支援ナースはあらかじめ活動イメージが持てていたようであったことから、平時の実践的な訓練への参加の必要性について述べられていました。
本調査にご協力をいただいた方々は、予期せぬ事態に対して、SNSや平時のネットワークからの情報収集を積極的にされ、少ない情報をから適切なアセスメントをし、臨機応変な対応をされていました。災害時の活動には、平時の看護実践がいかに大切かということを改めて実感致しました。
災害からの復興途中というご多忙の折、ご協力いただきました皆様に感謝申し上げるとともに、被災地の復興を衷心より祈念しております。


これまでの災害看護専門看護師活動と今後の地域減災活動への抱負

地域医療振興協会 公立丹南病院 窪 田 直 美

災害拠点病院である当院では病院各部署からメンバーが集結し、災害対策本部直属の下部組織として災害対策チーム会が組織され年間を通して活動している。私は資格取得後も主に備えの活動を中心に、チーム会の副委員長として年に1回の総合防災訓練を軸に、メールによる災害時安否確認訓練、緊急連絡網訓練、災害対策本部立ち上げ訓練、エリア立ち上げ訓練、原子力災害対応訓練、部署別訓練など、年間を通じて企画・実施・評価や支援をしている。また、訓練と同時に各部署のメンバーが主体となりマニュアル整備や修正できるように運営している。特に透析室では患者参加型の実動訓練を実施し、患者からも安心の取り組みとして好評価を得ている。教育活動では、院内の看護職対象研修、院外の災害支援ナース指導者育成研修、県内病院への出前講座、災害看護研修実践編など、さらには保険業組合などの他分野でも研修に携わっている。
災害急性期活動では、北陸地方を中心とした平成30年2月4日からの大雪時には、凍結による断水、一度に大雪が降雪し職員が登院できず、外来機能の縮小を余儀なくされ、組織化した対応を目的に災害対策本部立ち上げを早期に提案した。また、西日本を中心に被災した平成30年7月豪雨災害においては、日本災害看護学会先遣隊の記録係として被災地へ同行し、被災県の被災状況や情報を集約した。特に水害による断水の病院機能への影響は大きく、透析患者への迅速な対応の必要性、感染症対策を含むトイレ使用への影響、滅菌・洗浄不可能による手術や中央材料業務への影響、リネンや医療材料を含む資機材不足からの看護ケアへの影響など多岐に渡った。また、地域においては高齢化による在宅医療推進の状況の中、避難行動、避難所生活、復旧作業などにおいて、地域のコミュニティ力に課題があること、地域の福祉部門との連携が不可欠であることを感じた。
今後は災害拠点病院として平時から地域の民生員などを含む福祉に関する多職種とも繋がる必要がある。始まりの活動として、現在女性消防団に入団している関連で発災時の避難所支援を目的として市に「減災ナース」として委嘱されたことを機会に、地域住民への減災啓蒙活動を実施し、コミュニティ力向上のためにも地域活動を推進したいと考える。同時に、他地域の災害体験を活かせるように、災害看護専門看護師同士のネットワーク活動を推進し、連携を密にし、「現場主義」を大事に目的と覚悟を持ち活動していきたい。


2018年度第1回災害看護
教育活動委員会企画セミナー報告

災害看護教育活動委員会 セミナー担当 立 垣 祐 子

2019年1月12日、兵庫県民会館において、第1回災害看護教育活動委員会企画セミナー「これからの災害看護教育Ⅰ-災害看護コアコンピテンシーをふまえて-」を開催いたしました。
今回のセミナーでは、2017年度の同セミナーに引き続き、看護基礎教育における災害看護教育で取り上げた教育内容を具体的に学ぶとともに、本学会理事長である山本あい子先生より、ICN(International Council of Nurses:国際看護協会)の災害看護コアコンピテンシーについてご紹介いただきました。山本先生からは、災害に対する看護師のコアコンピテンシーの動向と方向性について、最新の情報をふまえてご説明いただきました。また、恒例となった参加者と講師との情報交換会も行われました。

 
受講後アンケートでは、「実際の授業風景を映像で拝見して授業展開のイメージができた」、「学生の主体的な学習を促すため、講義中心の授業からディベートを用いた授業展開に変えることを考えた」、「ICNコアコンピテンシーの内容が十分理解でき、教育の目指す方向性が確認できた」等の感想をいただきました。参加者された皆様と講師の先生方のご尽力により、本セミナーは、災害看護の教育のあり方や、それによって育成されるべき看護師像を我々に改めて問いかける貴重な機会となりました。改めてお礼申し上げます。

〈プログラム〉
第1部 災害看護基礎教育の実際と課題
「福井大学の教育活動」
酒井明子先生(福井大学・理事)
「東京医療保健大学の教育活動」
福田淑江先生(東京医療保健大学)
第2部 ICN災害看護コアコンピテンシーについて
山本あい子先生(四天王寺大学・理事長)
情報交換
座長 渡邊智恵先生(日本赤十字広島看護大学・理事
災害看護教育活動委員会 セミナー担当)


第21回年次大会
市民公開講座開催のお知らせ

社会貢献・広報委員会 寺 田 英 子

テーマ
カンタン!べんり!災害時に役立つ身近なもの
-災害発生時の健康問題に対応するために-
昨年、北海道は、豪雨災害や平成30年北海道胆振東部地震、地震に伴う大規模な停電や市街地の液状化による生活環境の破壊など大きな被害に見舞われました。多くの皆さまが災害による苦痛や困難さを経験されたことと思います。そして被災直後からの災害対応や、復旧や復興に向かっていくなかで、災害への備えのことや、市民自身が行う災害対応である「自助」「共助」の重要性を一層強く感じられたのではないでしょうか。市民の皆さまお一人おひとりが、災害はいつでも、どこでも、誰にでも襲ってくるという認識をもち、自分達の命と健康は自分達で守るワザを身につけることが大切です。
そこで、本市民公開講座では、災害現場や避難所で発生する様々な健康問題への対応について講義で学ぶとともに、市民の皆さまがご自身でできる災害対応として、カンタン!でべんり!な、災害時に役立つワザを体験していただけるよう企画しました。
講義では、平時と異なる災害時の医療体制のことや、身近なものを用いた出血、創傷、骨折などに対する応急処置、突然死をもたらすクラッシュ症候群などについて学びます。演習では、応急処置として、ふろしき、ハンカチ、ラップなど身近なものを用いた止血法や傷の手当と保護、雑誌や傘などを用いた骨折の固定法などを学びます。また、災害時お役立ちグッズとして、新聞紙やゴミ袋で災害時に役立つ食器や防寒グッズなどを作成して展示します。ぜひ手に取ってご覧ください。
いざというときに使える知識とワザを身につけて、自助力、共助力を向上させる機会にできればと思います。開催概要は下記の通りです。

テーマ カンタン!べんり!災害時に役立つ身近なもの
-災害発生時の健康問題に対応するために-

日 時 2019年9月6日(金曜日)13:20~14:20
場 所 日本赤十字北海道看護大学2-3講義室
(詳細はHP等をご確認ください)

お申し込みは不要です。ぜひ看護職の皆さまもご家族や友人・知人をお誘いいただき、ご参加ください。お待ちしております。
最後になりましたが、被災された皆様には心よりお見舞い申し上げますとともに一日も早い復興をお祈り申し上げます。


編 集 後 記

社会貢献・広報委員会 石崎 ゆかり

平成から令和に変わろうとしている時、私はこの文章を書いています。
平成は雲仙普賢岳の火砕流から始まり、挙げればきりがないほどの災害にみまわれ、多くの命が失われた時代でした。同時に、平成は医療者の災害への意識が飛躍的に向上し、教育、実践、研究において研鑽を重ねてきた時代でした。しかしながら、災害は一様ではなく、そのつど私達に課題を突きつけてきます。
このたび、寄稿頂いた方々には、平時からの災害教育、組織の備え、地域や多職種との協働・連携体制及び市民の自助・共助の意識向上への関わりの重要性を教えて頂きました。また、日本だけでなく世界の知見に触れることも視点を広げる機会となることを学びました。
令和の時代も皆様と経験や学びを共有し合い、来る災害に備えていきたいと思います。

 





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