JSDNニュース No.35

バングラデシュ南部避難民救援事業
~第三班の活動~

熊本赤十字病院 末永 奈津

「あっちが僕たちの住んでいたミャンマーだよ。帰りたいな。」避難民のスタッフさんが遠くの空を指さし話していた事が印象に残っています。
2017年8月末、ミャンマーのラカイン州に住むイスラム系民族とミャンマー政府の衝突を機にイスラム系民族が隣国バングラデシュへ一気に且つ大量に避難し、その数約80万人に達しました。日本赤十字社は要請を受け基礎保健ERU(緊急対応ユニット)が9月から活動を開始しています。先遣隊は情報収集、初動班は巡回診療立ち上げ、第二班は巡回診療の継続と仮設診療所計画が成され、第三班は仮設診療所開業、巡回診療などの事業拡大を目指し活動に臨みました。
私たちはイタリア赤十字社やバングラデシュ赤新月社の医療スタッフに加え、避難民スタッフと共に活動を行いました。彼らや診療所に来る患者さんたちの中には家族や友人、家や仕事など大切なものを失い、また国籍を持たず十分な教育を受けていない方もいました。避難民キャンプ地は暑く、狭く重なり合ったテントが広がり、床は土で底冷えし、食料は限られ、水場とトイレが近く水質が汚染され易い環境でした。その為、呼吸器・消化器・皮膚疾患や低栄養児が多く診療に来られ、また体だけでなく心に傷を負った方も多かったです。
看護師として診療前のトリアージ、点滴・創傷処置、薬局業務、助産師やこころのケアチームとの連携などを行い、少しでも避難民の方に寄り添えるよう努めました。また避難民スタッフへ物品管理、バングラデシュの看護師には基礎看護技術や物品、業務管理などオーナーシップを取れるような働きかけも行いました。
活動途中からジフテリアの流行に伴い、避難民やスタッフの感染管理と仮設診療所をジフテリア治療/隔離センターとして稼動する為の準備を早急に進めていきました。接触者追跡調査や感染予防の為に避難民スタッフと共に家庭訪問を行い、予防投薬や指手衛生などの必要性を現地の言葉や媒体を交えながら伝えました。衛生教育は第一班から行われており、こころのケアチームにも取り入れ、患者さんや家族だけでなく地域住民へも広がるよう取り組みを拡大していきました。
現地での活動中、熊本地震で被災し救護活動した経験が想起されました。バングラデシュへは今も第六班が派遣され、熊本地震でも被災者の方がいまだ仮設住宅に滞在している現状で、継続的な活動が必要です。国内外問わず困っている人を助けたいと改めて思いました。


ひょうご安全の日のつどい

兵庫県立大学看護学研究科
共同災害看護学専攻5年一貫制博士課程
陶 冶
胡 沁

2018年1月17日、『-1.17は忘れない-「伝える」「備える」「活かす」』というテーマのもと、ひょうご安全の日のつどいが開催されました。兵庫県立大学大学院Disaster Nursing Global Leader Degree Programと地域ケア開発研究所は、毎年防災啓発のための展示や情報発信を行っています。
今回は、「防災マークを知りましょう」というテーマで、ハザードや避難所のマークの紹介と避難所での手指衛生についての情報共有を行いました。
防災マークは、2013年の災害対策基本法の改正や2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会開催に向け、標準化されたマークや避難誘導システムを用いて誰もが素早く安全に避難することができるような取り組みが進められています。このようなことから、災害発生時に安全に避難できるように防災マークとその意味、表示方法を展示し、参加者に説明したり意見交換したりしました。多くの方は、防災マークを理解していましたが、知らなかったという方もおられました。また、外国の方の参加もありました。そのひとりは、町で防災マークを見かけたが、今回の展示により意味を理解していないことに気づき、防災マークについて知りたいと話されました。国内外の参加者の方からは、新しい知識を得ることができたという反応があり、災害発生時に的確に判断し避難ができるようにこのような活動を継続していくことが必要であると感じました。
また、過去の災害では、生活環境等により様々な健康問題が発生しています。水がない環境で、どのように手の清潔を維持できるのか、その方法を考え学ぶことは避難所での健康を維持するだけではなく、日々の健康維持・増進にもつながります。私たちは、参加者が避難所の状況をイメージできるように、避難所の環境のポスターを展示し、手洗いの意味や手指衛生の正しい方法を説明しました。また、阪神・淡路大震災などの避難経験をされた方から、手洗いの実際や工夫を意見として集め、参加者と共有しました。阪神・淡路大震災時はアルコールの手指消毒剤はなく、使い捨て手袋やウエットティッシュが役立ったという意見が多かったです。
このような活動が災害時の多くの人々の健康維持につながることを願っています。


災害看護専門看護師としての抱負

久留米大学病院 岡﨑 敦子

私は、10数年前から兵庫県立大学大学院で災害看護を学び始めました。様々な過去の災害から教訓を学び、誰のため、何のために、その時どのような看護が必要なのか、災害看護の成果をどのように社会に発信して行けるのか、私にできることは何かを今も探しています。
昨年7月に発生した平成29年九州北部豪雨災害では、被災地に最も近い地域災害拠点病院の看護師として、また福岡県看護協会から派遣される災害支援ナースとして、私が担う役割は何か、改めて考える機会となりました。これまでの災害支援活動や学会活動の経験を通して、日常的な備えの大切さと、被災地にとって適切な時期に継続性のある看護が必要だと再確認しました。そのためには、院内や地域の中で、平時から災害時を見据えた組織化やネットワークづくりが必要です。
現在、私は所属する病院内で習熟度段階に合わせた災害看護ラダーを作成し、新人看護師から看護管理者を対象とした災害看護教育を行っています。基礎教育で災害看護を学んでいる新人看護師の柔軟性や思考力は、経験豊富な臨床の看護師に劣らず、統合分野で災害看護学の教育が行われている結果だと感じています。また、日常的な看護の質を向上させることが、災害時の備えになることを継続教育の中で伝え、「5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)活動」や「初期消火訓練」が少しずつ浸透してきました。
都道府県看護協会の活動として、被災された方々の健康を維持し、被災地の看護職の心身の負担を軽減するために、災害支援ナースの育成に携わっています。熊本地震や九州北部豪雨では、避難所の環境アセスメントを行い、活動開始時から収束を見据えた継続性のある看護ができるよう関係機関と連携し、看護計画に沿って支援しました。しかし、災害支援ナースの派遣期間全体を通して、客観的な看護の評価ができなかった点は今後の課題です。
私は災害看護専門看護師の資格を得ましたが、臨床や地域、教育の場における明確な役割はまだ模索しています。私たちが活動していくことが、後々、災害看護専門看護師の役割となるのかもしれません。私は、これまでの活動が組織や地域に根付き、文化や風土になれるよう、一つひとつ積み上げていきたいと考えています。
私たちの暮らしを取り巻く社会は、阪神・淡路大震災や東日本大震災など多くの災害に学び、法や制度が整備され、防災への関心も高まっています。災害看護専門看護師として、20年後、40年後の社会がどのように変化していくかを想像し、今出来ることを身近なことから取り組むことを大切にしています。地域の方々のいのちと暮らしを守ることができるよう、皆様と共に人と人がつながる社会を目指したいと思います。


教育セミナー

教育活動委員会

「災害看護学」は看護基礎教育の中で2009年に必修化され、これにより、災害看護専門教育は学部・大学院の中で発展してきています。
学部教育の中では、看護師国家試験問題に災害看護が入り、大学院においては、災害看護専門看護師教育課程が開設(2012年)され、2017年に災害看護専門看護師が誕生しました。さらに、災害看護に特化した共同大学院(災害看護グローバルリーダー養成プログラム:Disaster Nursing Global Leader Degree Program/DNGL)における教育が開始(2014年)され、2018年には修了生が飛び立つ予定です。2017年11月に教育課程コアカリキュラムが提示され、それぞれの教育施設でもカリキュラムの見直しに取り組まれていることと思います。
そこで、本セミナーでは、これまでの災害看護教育の歩みを振り返ったうえで、看護基礎教育に焦点をあてて、災害看護に関連したディベート等を活用し、学生の主体的な学びを基本にした災害看護教育方法の実践をしている福井大学と、「災害看護学コース」を開設し、災害看護をテーマとした卒業研究に取り組んでいる東京医療保健大学から具体例を報告していただき、これからの災害看護教育について、参加する皆さまと一緒に検討をしていきたいと思います。このセミナーを通して、教育担当者として抱えている課題を共有し、今後に向けたネットワークづくりをしていきたいと思います。
災害看護の教育担当者、これから担当する方、関心のある方のご参加をお待ちしております。

テーマ
これからの災害看護基礎教育-いかに教えるか、災害看護-
日時:平成30年5月19日(土)13:00~16:00
会場:日本赤十字広島看護大学 204講義室(〒738-0052 広島県廿日市市阿品台東1-2)
プログラム
<第1部>
13:00~13:30
災害看護基礎教育の変遷:渡邊 智恵(日本赤十字広島看護大学 教授)
13:30~15:00
災害看護基礎教育の実際と課題 福井大学の教育活動:酒井 明子(福井大学 教授)
東京医療保健大学の教育活動:福田 淑江(東京医療保健大学 准教授)
<第2部>
15:10~16:00 情報交換
参加費:会員3,000円  非会員5,000円
申し込み方法
日本災害看護学会HPから申し込み用紙(①氏名、②所属、③連絡先住所、電話番号、Email、④会員・非会員の別、⑤参加にあたり、これから挑戦したい災害看護教育や、現状の教育で困っていることを自由に書いてください)をダウンロードし、下記宛にメールをしてください。申し込みの締め切りは5月1日(17:00)としております。席に余裕がある場合に限り当日参加も可能ですので、早めにお申し込みをしてくださいますようお願いします。
申し込み、お問い合わせ共通メールアドレス
saigaikango2018@gmail.com


第20回年次大会 市民公開講座開催のお知らせ
テーマ「災害時における被災者の健康生活支援と
支援者のストレスケア」

社会貢献・広報委員会

阪神・淡路大震災から23年、東日本大震災から7年を迎えた現在、災害への備えの重要性が再認識されるともに、今後起こりうる巨大災害に対しての備えもまた、たいへん重要な課題となっています。そこで、社会貢献・広報委員会では、第20回年次大会において以下のように市民公開講座を企画いたしました。
テーマ:「災害時における被災者の健康生活支援と支援者のストレスケア」
講師:兵庫県看護協会 会長 中野則子氏
日時:平成30年8月11日(土曜日)
(13:00~14:00の予定)
場所:神戸国際会議場内
(詳細はHP等をご確認ください)
発災とともに始まる避難生活は、ライフラインの途絶や救援物資の不足など、被災者の生活を取り巻く環境の影響を受け、被災者のみならず支援者の方々も疲労の蓄積や体調不良につながっていくことが予測されます。近年発生した大災害においても、避難所や仮設住宅での生活環境に起因したと考えられる災害関連死は後を絶ちません。せっかく助かった命を守り、災害関連死を防ぐための健康生活支援のあり方を考えておく必要があります。また、災害時の被災者支援にかかわる担当者(地域団体役員、行政担当者や教育関係者)は、避難所を開設するだけにとどまらず、「被災者の健康生活が維持されること」を目標に、その「質の向上」に取り組むことが求められています。その結果、自身が被災者であるにもかかわらず、役割意識と使命感から休むことなく活動し、過重なストレスがかかり心身ともに疲弊していくことが容易に予測されます。
そこで本講座では、市民の皆さまとともに被災者の健康生活支援とともに、被災者と支援者双方のこころのケアについて考える機会にしたいと思います。
講師の中野則子氏は、阪神・淡路大震災時、保健師として避難所や仮設住宅、復興住宅においての保健活動、復興に向けた活動に尽力されました。また、東日本災震災においても、兵庫県保健チームでの支援活動や兵庫県看護協会の支援活動、兵庫県こころのケアチームとしての支援活動を行ってこられました。このようなご経験をふまえ、本テーマはもちろんのこと、外部からのさまざまな支援チームとの連携と調整の重要性、さらには災害発生直後のみならず中長期にかけての支援を継続していくことの重要性やこれからの地域包括ケア時代を踏まえた災害支援についてもお話をいただけるのではないかと思います。
日程は一般の方、とくに避難所運営を担う役割がある学校関係者の方も参加しやすい土曜日に設定いたしました。本学会が20回目という節目になる年に、神戸からメッセージを発信することができることに大きな意味があると考えています。ぜひ看護職の皆さまもご家族や友人・知人をお誘いいただき、ご参加ください。お待ちしております。


第5回世界災害看護学会 開催のご案内

 

The 5th Research Conference of World Society of Disaster Nursing,
Bremen, Germany 2018

1.開催日:平成30年10月18日(木)・19日(金)
2.開催地:ブレーメン、ドイツ
3.学会長:ステファン・ゴレス教授 ブレーメン大学
4.テーマ:地球規模の災害リスク管理に対する挑戦-証拠に基づいた研究と看護師に求められる強力な能力-
5.学会HP:https://wsdn2018.de


編 集 後 記

社会貢献・広報委員会 東ますみ

新たなメンバーになってから、2号目となる第35号のニュースレターをお届けすることができました。「バングラデシュ南部避難民救援事業」では、報道が少なくなるなか、避難民の置かれている厳しい現実に、改めて継続的な支援の必要性を感じました。「ひょうご安全の日のつどい」では、阪神・淡路大震災を忘れず、防災啓発の情報発信が災害の備えにつながることを願っています。前号に引き続き、新しく誕生した災害看護専門看護師の方の抱負を掲載しております。地域の方々のいのちと暮らしを守る活動を行い、災害看護の成果を社会に発信して欲しいと思いました。今回は、第20回年次大会の市民公開講座開催のお知らせと、5月19日開催の教育セミナーのお知らせを掲載しておりますので、是非、関心のある方はご参加をお願いします。





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会員数:2023年9月末現在

名誉会員10名
(うち物故会員4名)
個人会員:1,292名
組織会員:33組織
賛助会員:3組織

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