JSDNニュース No.30

第17回日本災害看護学会年次大会を終えて

大会長 吉田俊子(宮城大学看護学部)

 2015年8月8日(土)、9日(日)の2日間にわたり、仙台国際センターで第17回日本災害看護学会年次大会を開催しました。国連防災会議に続き、東日本大震災の被災地での災害関係の学術会議開催となり、宮城県、仙台市をはじめ多くのご後援をいただき、また開会にあたっては宮城県三浦副知事より歓迎のご挨拶を頂戴いたしました。今回のメインテーマを「東日本大震災からの教訓―経験から知の構築へ―」とし、震災から5年目を迎えた今、私たちは何を経験知とし、災害看護学の構築につなげていくのか、立ち止まって考える機会にしたいと思いました。会期中、会場のあちらこちらで熱いディスカッションが展開され、災害看護の重要性を再認識し、内外にもアピールする機会になったと思います。
 参加登録者数は約1700名、市民公開講座や公開シンポジウムでは約100名の一般の方々が参加されました。一般演題は、口演、示説と合わせ137題、教育講演3題、シンポジウム4セッション(うち1つは公開シンポジウム)、パネルディスカッション3セッション、特別企画1題、ワークショップ9題、交流集会8題、学会企画8題、ナーシングサイエンスカフェ、共催ランチョンセミナー8題と、多くのご参加をいただくことができました。また昨年にご逝去された黒田裕子理事を偲び、皆様とともにご冥福をお祈りいたしました。
 ちょうど、仙台は七夕の期間であり、豪華で優美な七夕も楽しんでいただけたのではと思います。ただ、9日が仙台花火の雨天予備日とぶつかってしまい、会場管理上から早めの終了時間となり、並列でいくつものセッション開催になってしまいましたこと、お詫び申し上げます。
 数年前に仙台開催がきまってから、あっという間に大会当日を迎えた感で、準備にあたっては多方面にご尽力を賜りました。無事に大会を行えましたこと、会員の皆様、開催にあたりご尽力いただいた皆様に、心より感謝申し上げます。
 現在国内外において、大規模災害が発生しておりますが、災害は人々の健康に直結しており、看護支援はますます重要となっております。仙台での学びを胸に、次年度は久留米でまた皆様と熱いディスカッションを行っていきたいと思います。


災害看護教育活動委員会企画セミナー報告
「育てよう災害看護のリーダー  -学会認証を目指して-」

三澤寿美(東北福祉大学 健康科学部 保健看護学科)
災害看護教育活動委員会理事 小原真理子 (日本赤十字看護大学大学院看護学研究科)

 平成27年6月7日(日)日本赤十字看護大学武蔵野キャンパスにおいて、平成26年度第1回災害看護教育活動委員会企画セミナーを開催しました。本セミナーは、「育てよう災害看護のリーダー -学会認証を目指して-」をメインテーマとし、基調講演、パネルディスカッションの二部構成の企画としました。セミナー当日は、大学院生ならびに学部生26名を含む会員・非会員あわせて108名の参加がありました。
 午前の基調講演では、日本赤十字災害医療コーディネーターである武蔵野赤十字病院 医師 勝見敦氏より、「災害医療コーディネーターの役割」についてご講演をいただき、実際の災害医療活動から、まとめ役・調整役・指揮者・統括者・窓口といった「災害医療の何でも屋」としてのコーディネーターの役割について考える機会を得ました。また、その役割や仕組みづくりについては医師だけでは不可能であり、看護師や薬剤師のまとめ役が必要であることも示していただきました。
 午後からのパネルディスカッションでは、午前中の基調講演を受けて、日本赤十字社事業局看護部長 小森和子氏、日本看護協会 久保祐子氏、福井大学 酒井明子氏、日本災害看護学会理事長 山本あい子氏より、それぞれ管理者、職能団体、教育機関、学会の立場から、災害看護リーダーの育成についてご発言をいただきました。フロアとのディスカッションも活発に行われました。参加者アンケートの結果から、セミナー参加を通じて、災害看護のリーダーに求められている事柄や課題について、さまざまな視点で具体的に考えるきっかけになったことや、自施設での災害看護リーダーの育成の参考になったことなどが明らかになりました。一方、それぞれの立場で考える災害看護のリーダー像が異なっていることから、看護職全体として災害看護リーダーの向かうべき方向性や認証制度のめざすものを明確にすることや、目標やゴールの設定の必要性などが意見として出されました。
 災害看護教育活動委員会では、今後も災害看護リーダーの役割や認証制度の位置づけを明確化するとともに、災害看護リーダー育成の課題を引き続き検討していく予定ですので、学会員の皆様のご意見ならびにセミナー参加について、これからもよろしくお願いいたします。


日本災害看護学会 第17回年次大会
社会貢献・広報委員会活動報告
「災害時要援護者とともに自助・共助を考える」

日本災害看護学会担当理事 山﨑達枝
委員:神崎 初美、菊地 睦、城戸口 親史、 牧野典子、三浦 まゆみ

 大会初日14時50分より市民公開講座「災害時要援護者とともに自助・共助を考える」と題し、仙台市視覚障害者福祉協会長の高橋秀信氏を講師に迎え「東日本大震災から現在までの視覚障害者の状況から見えてきたこと」についてご講演と視覚障害者に必要な器具の紹介、後半には視覚障害の方の安全な誘導方法についてご指導を受けました。
【企画までの経緯】
 日本経済新聞2012(平成24)年7月30日付けに次の様な「東日本大震災時の障害者の死亡率は全体の2.5倍」と紹介された記事に目が止まりました。「津波が来るのが聞えなかった。火災が発生したのが見えなかった。情報が理解しにくかった。」等により逃げ遅れた可能性が高く、障がいのある人は一般市民より死者数が多かったということでした。緊急事態の状況を瞬時に察知することは不可能で状況を判断することは難しい。そこで弱い立場の人々の事を真剣に考える必要で、障害のある方がより安全な生活を送れるよう学ぶことが重要となります。当日は、一般市民の皆様にも参加して頂き、演習等を実際し、参加者の皆様にも誘導技術を身につけて頂こうという思いから企画いたしました。
 講演では、東日本大震災後に視覚障害者に行ったアンケートからわかったこと、受けた差別や無視、孤立やとまどい、初めての場所で情報がなく動くこともできず、日常の感覚を失った視覚障害者がいかに不自由な生活を送らなければならなかったかを事実に基づきわかりやすく教えていただきました。
 次に、眼の代わりとなる器具を紹介して頂きました。例えば靴下を左右違った色を履いていてもわからない、そこで器具を靴下に近づけると「紫」と器械が答える。これで左右同じ色の靴下が履けますと説明して下さりながら実演して下さいました。
 後半の演習では、会場から自ら手を挙げて下さった一般市民男性や看護大学教員の方に誘導の摸疑体験をして頂きました。会場前方に机と椅子を使って障害物や狭道を作り、2名の方にそれぞれ講師を誘導してもらいました。最初に行った一般市民の方はスムーズに誘導でき、講師からも褒められ会場から大きな拍手がわきました(写真)。一方、看護職者(教員)の誘導は講師がつまずき机にぶつかりそうに、また、椅子に座れない等、スムーズに誘導できない場面がありました。しかし、講師のユ-モアセンスのある対応に会場は笑い声が絶えず、体験者も参加者も楽しく学ぶことができました。
 約140名の参加者、そのうち一般住民は約20名、その中に視覚障害者が約5名程みられました。
 会場は決して交通の便が良いとは言い難い場所でしたが、特に眼の不自由な方が複数参加して下さったことに、この企画にして良かったと委員一同安堵いたしました。これも学会事務局の皆様や社会貢献委員が広報活動に積極的に努力したことの賜物と思います。障害のある人も無い人も共に安全な生活が送れるように普段から支援のあり方を考えていきたいものです。


ネットワーク活動報告
御嶽山噴火災害における初動調査

深谷 真智子(神奈川県看護協会)
ネットワーク活動委員会理事 石井美恵子 (東京医療保健大学東が丘・立川看護学部)

 平成26年9月27日11時52分に長野県木曽郡木曽町王滝村、岐阜県下呂市・高山市に位置する御嶽山で水蒸気噴火が発生した。登山者の多くが昼食を取っている時に噴火し、死者57名、行方不明者6名、負傷者69名の戦後最大の犠牲者となった。
 ネットワーク活動調査・調整部では、発災後より災害の状況を見守り情報収集を行ってきた。今回負傷者を受け入れた災害拠点病院、保健福祉事務所、こころのケアチーム、災害対策本部が設置された長野県庁にご協力を頂き、被害状況や支援機関の活動について聞き取り調査を行った。
 災害拠点病院ではトリアージエリアと救護所本部を設置し、入院用ベッドを各病棟に確保した。看護体制は病棟業務を優先し災害対応は日勤者が残って対応した。心肺停止(黒タッグ)の方は旧上田小学校へ搬送された。トリアージ者数61名、入院者数10名、他の医療機関への搬送者数は17名であった。
 負傷者の症状及び診断は、火山灰吸入による咳・呼吸困難、気道熱傷、熱傷、噴石による打撲・骨折・外傷であった。
 負傷者の洋服は火山灰の汚れや噴石により焼け、処置前に洗浄し更衣をする必要があった。入院患者の中には自分だけが助かり友人を置き去りにしてしまったという罪悪感で、多弁、興奮状態の方もいた。県立こころのケアセンターと連携して診察、内服処方を受けられるようにした。入院した方の中には、黒タッグの身元確認に向かわなければならない方々もおられた。
 待機所では昼間は捜索活動の情報を待ち、捜索の行われない夜間は待機所に泊まる方、旅館や自宅に帰る方などそれぞれであった。旧上田小学校へ搬送された方々の家族は発見された「喜び」と亡くなった現実が交差していた。また、遺品を見て「うちの息子のではない」と認めたくない両親や「発見されないで助かっていてほしい」「見つかってほしくない」と複雑な気持ちを話された家族もいた。一方で、待機家族の支援として既往症のある方の症状観察や感染源を作らないために洗面所・トイレなどの水回りの清掃も実施する必要があった。
 捜索は、噴火による噴石もあり、非常に危険を伴い、また へリコプターで3000mに急上昇するため、気圧低下に伴う低酸素血症による高山病になり体調を崩す隊員もいた。
 今回の災害の特徴は家族が災害現場に行けないこと、見知らぬ地域で捜索活動の報告を待つことしかできないこと、また、地元の被害がなかったことが挙げられる。それぞれの支援機関が連携しながら指揮命令・統制がとられていたと感じた。捜索活動した方、負傷者を受け入れた病院職員は使命感で支援していたことが伺え、被災者家族と同じようにストレスを抱えていることも分かり、支援者のこころのケアも必要であることを再認識した。
 以下の写真は長野県庁ホームページより引用しています。


ネパール連邦民主共和国 中部地震災害における医療支援活動 ~認定特定非営利活動法人災害人道 医療支援会(HuMA)の看護師としての活動

HuMA登録看護師・太成学院大学 講師 弘中陽子

 2015年4月25日ネパール連邦民主共和国で、マグニチュード7.8の地震が発生し、HuMAは外国の医療チームが引き潮となる発災後2週間目の5月9日に初動調査隊を派遣しました。調査の結果、本隊派遣が決定され、私は1次隊看護師として5月16日~5月25日(実活動6日間)活動してきました。
 派遣場所は、被害が甚大なシンドパルチョーク地区のラムチェPrimary Health Center(PHC)で、現地医療スタッフ10人(医師3名・看護師/助産師2名・看護学生1名・ヘルスワーカー他4名)と1次隊医療チームメンバー(医師2名・看護師2名・調整員1名)で協働し、活動を行いました。
 発災後より医療スタッフは、被災者患者の対応に追われ疲弊しており、5月12日の最大余震によりPHCにも大きな亀裂が入り、屋外での診療活動を強いられていました。
 私たちは、PHC医療支援と現地スタッフの休息が少しでも取れるように、また、PHC再建のための調整の時間が取れるように支援しました。
 最初の診療活動は、現地の医療スタッフの診療の流れや対応方法を知ることから行いました。現地での診療は、受付台帳に日付・患者氏名をネパール語で記入、カルテが作成され、診察、処方した後に患者がカルテを持ち帰るという流れになっていました。診療統計は、行われていない状態でした。HuMAカルテの使用について現地スタッフと話し合い、カルテは英語で記入することを統一しました。基本的な診療の流れは変えず、HuMA看護師は、問診・薬局に役割分担し、必要時に処置などの診療補助を行いました。現地看護師には、処置のみに来られる患者対応を依頼しました。患者は、英語が通じないため現地医療スタッフ(看護学生・ヘルスワーカーなど)にネパール語と英語の通訳をしてもらい、日本から持参したネパール語指さし会話帳も駆使し、コミュニケーションを行いました。時間に余裕のある時には、子供たちに公衆衛生活動やこころのケアの一環として絵を書いてもらう活動も行っていました。
 1次隊での疾病は、外傷は少なく、咳・下痢・腰背部痛を訴える患者を多く認めました。1次隊から3次隊(5/18~6/3)までの診察患者は、952人。外傷182例(19.1%)、急性呼吸器感染症144例(15.1%)、急性下痢症132例(13.8%)でした。瓦礫撤去による外傷や住居環境増悪による感染症の増加が考えられました。
 今回のミッションでは、余震の危険性やPHCの崩壊、気象状況によっては車による行き帰りの道で土砂災害の危険性が考えられる状況下での活動でした。厳しい中で、自分達の使命は、初動調査隊による活動の基本方針をいかに具体的な形として後続隊に引き継いでいくかでした。
 医療支援活動を終了し、発災後急性期から亜急性期にかけて被災者対応と現地の医療システム回復に向けた支援の重要性を感じました。
 最後に今回の地震災害で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、1日も早い復興をお祈り致します。


編集後記


 平成27年9月9日に上陸した台風18号の影響による鬼怒川の氾濫・越水により茨城県常総市とその周辺において大規模な水害に見舞われました。この水害によって1,000人以上の災害支援ナースが派遣され、地域に住む住民の方々、被災された医療機関の支援で活躍されました。被災された方々がもとの生活を取り戻し、復興するにはまだまだ時間がかかります。災害にあわれた方々、医療機関の皆様が健康を維持し、安心した生活を取り戻せるよう、本学会としても活動していきたいと思います。
 日本災害看護学会社会貢献・広報委員会は、これからも災害看護に関連する情報を一層、充実させて発信し、皆様と共に歩んで参りたいと思います。皆様からの御意見をお待ちしております。城戸口親史(記)






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会員数:2023年9月末現在

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賛助会員:3組織

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